健康・環境問題は、「不思議猫の森」の「森の樹々」の中のメインコンテンツの一つになるはずで、資料も大量に貯め込んでいたのだが、結局1本も記事を書かず、先日資料もほとんど処分してしまった。
猫の性格をよくご存知の方は、その後の展開が予想できると思われるが、ようやく、書く気がしてきたのであった。このあまのじゃくな性格はどうにもならない(既に諦め)
さて、今回は、タイトルの通り、ソルビット、ソルビトール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムの話である。
これらは、加工食品の原材料名のところをみると、頻回に登場する単語である。
さて、ソルビット、ソルビトールは同じ物を指していて、甘味料。無害。ただしカロリー有り。
ソルビン酸カリウムはソルビン酸のカリウム塩で、両方とも保存料。若干有害。
ソルビトール、ソルビット
ソルビトール、ソルビットは同じ物を指し、グルコースの誘導体。いわゆる糖アルコールと言われている物質である。同じ重量の砂糖に比べるとカロリーは75%だが、甘さは60%なので、同じ甘さを得ようとするとむしろカロリーが増えてしまう。そのため低カロリーのための甘味料としてはあまり適さないが、いろいろな食材にほのかな甘みを付けるのに使われる。
自然素材の中では、バラ科の植物が生成することで知られている。デンプン→グルコース→ソルビトール→植物内運搬→実の中でグルコースに戻す、という生理現象が起きている。リンゴの実が熟れると、内部に「蜜」と呼ばれる部分ができることがあるが、その部分の甘みの主成分である。
いわゆる毒性はないと思われる。
ただし、大量に摂取すると、いわゆるお腹がゆるくなる現象が生じるため、d-ソルビトールが医薬品として「 消化管のX線造影の迅速化、消化管のX線造影時の便秘の防止、経口的栄養補給」の効果効能として認められている。要するにバリウム検査のバリウムについている甘味の正体である。
ソルビン酸、ソルビン酸カリウム
左の構造で示される、不飽和脂肪酸の一つである。ソルビン酸自体は水にあまり溶けないが、これのカリウム塩であるソルビン酸カリウムはよく水に溶けるので、その性質によって使い分けられる。いずれにせよ、カビ、酵母、好気性菌に対して制菌性を持ち、防腐剤として食品に添加される。
カリウム塩の構造式は左の図のHOのHが電離してそこにカリウムイオンが来たものとなる。R-COOH→R-COO- + H+ となって、H+の代わりに K+ が来たもの。
急性毒性(半数致死量)は7.4〜12.5g/kgである。ちなみに食塩の急性毒性(半数致死量)は4.0g/kgである。そのため、急性毒性的には、食品添加に当たって何の問題も無い。ただし、防腐剤等が、制菌作用をもっているので使用されているのであり、抗生物質服用と同様に、腸内細菌叢を乱すという指摘は肯定せざるを得ない。また、亜硝酸塩(発色剤)と同時に含まれていると発癌性物質を生成するという報告が有り、それをもって、ソルビン酸・ソルビン酸カリウムが危険であるという主張がなされている。しかし、「雌雄のWistar系ラット(各群各30匹)を用いた対照群・ソルビン酸5%投与群・亜硝酸ナトリウム0.1%投与群・亜硝酸ナトリウム0.1%+ソルビン酸5%複合投与群の4群にて行った1年間の混餌投与試験では、体重・臓器重量・血液学的所見・血清生化学的所見・病理組織学的所見・腫瘍発生のいずれにおいても、被験物質投与による腫瘍の発生を認めなかった。」という実際の実験結果が有り、発癌性の大きな危険は否定された形となっている。
余談であるが、日本人の摂取する亜硝酸塩の9割は野菜由来であるという情報があった。亜硝酸塩を摂らないという選択枝はほぼなく、亜硝酸塩は多量に摂っているという前提で物事を考えるべきということになる。
なお、ソルビン酸とソルビン酸カリウムは、体内で容易に片方からもう片方へと変化する。
また、ソルビン酸が、バラ科の植物であるナナカマドに含まれる天然素材であるから安全という論述がちらほら見られたが、二重の意味で肯定できない。
まず第一にソルビン酸が、ナナカマドの成分として含まれるということ自体が確認できなかった。確認できたのは、ナナカマドには、「パラソルビン酸」が含まれるということであった。パラソルビン酸は左図の如く、環状の有機物で有り、これからは結合場所を1箇所切るだけでソルビン酸を誘導できるので、おそらく、ナナカマドに含まれる天然のソルビン酸から、誘導して作ることができる、とは言えるが、ナナカマドに含まれるという陳述は現時点で肯定できない。
二つ目には、天然素材であるから安全であるという論理がそもそも間違っている。フグの内臓に天然に含まれるからフグ毒は安全であるという結論が得られてしまうような、誤った論理である。フグ毒でなくとも、植物には結構有毒な物質が含まれているので、天然=安全、合成=危険という図式を用いた陳述がある説明は、そもそも科学も論理もわかっていない人が書く説明であるので、信用しないほうが良い。
ということで、ソルビット、ソルビトールは、危険性がないものとして良い。ソルビン酸は、神経質な人は避けてもよい。くらいな程度である。